変化球が曲がるのはなぜかを調査(2.変化球紹介編)

変化球の種類について調べてみました。といっても、今回はウィキペディアの内容をまとめただけですが。それでは早速いきましょう。

・ストレート(フォーシーム)

いわゆる直球です。ボールが1回転する間に縫い目が4度見えることから、フォーシームとも呼ばれます。

人差し指と中指を、やや隙間を空けて握ります。

回転はバックスピンとなります。図の回転軸は投手から見たもので、右手の親指だけを立てて矢印の方向に合わせたときに他の四本の指が巻いている方向に回転します。右ねじの法則ですね。

バックスピンにより、上向きの揚力が発生します。ただ人間が投げる場合、多かれ少なかれシュート回転をしているため、多少は右方向(右投手の場合。以降同じ)への揚力も発生します。

スピン量が多くて(=回転数が多い=スピンパラメータが大きい)揚力が大きいストレートを、キレがよいとか伸びがあるといいます。揚力が大きいと浮き上がって見えますからね。

 

ツーシーム

ストレートと同じように人差し指と中指で握りますが、握ったボールの向きがフォーシームとは90度違います。ボールが一回転する間に縫い目が二度見えることから、ツーシームと呼ばれます。

握りがわずかに違うことで、フォーシームよりもシュート回転し、スピン量は低下します。そのため、フォーシームよりも右に動き、上向きの揚力が小さいことから沈みます。こういうと「それもうシュートじゃね?」と言われそうですが、実際ツーシームとシュートはほぼ同じだそうです。

ちなみにツーシームが沈む理由として、「縫い目が二回しか見えないから揚力が小さいのだ」という説がありますが、私が調べた限りでは「そもそもスピン量が違う」という説の方が有力な気がします。指の縫い目へのかかり方によって、スピン量が微妙に変わるらしいです。

 

・シュート

ストレートと同じ握りで投げられます。

バックスピンと、上から見て時計回り(右投手の場合。以下同様)のサイドスピンがかかります(以降シュート回転といいます)。バックスピンにより上向きの揚力、シュート回転により右向きの揚力が発生します。

右投手が投げると右打者に近づく方向へ曲がるので、内角を狙ってバットの根元で詰まらせたり、外角のボールゾーンからストライクゾーンに入れたりします。

 

・シンカー(スクリューボール

投げ方には様々なバリエーションがあります。

回転数が少ないため小さな揚力と、シュート回転により右向きの揚力が発生します。

よく使われる定義として、シンカーは直球の軌道から曲がり落ちる。スクリューボールは逆方向のカーブのような軌道で浮き上がってから落ちる、といわれます。

サイドスローアンダースローの投手が投げやすく、よく使うそうです。

 

・スライダー

一般に人差し指と中指を並べて握り、切るようにして投げます。

バックスピンと、上から見て反時計周りのサイドスピンがかかります(以下、スライダー回転といいます)。バックスピンにより上向きの揚力、スライダー回転により左向きの揚力が発生します。

スライダーのうち、バックスピン・スライダー回転の強いものを横スライダーと呼び、バックスピンが強ければあまり落ちずに横滑りをする球、スライダー回転が強ければ大きく横滑りをしながら落ちる球となります。

一方スライダー回転をしながらジャイロ回転(後述)もするものを縦スライダーといいます。バックスピンが弱いために落下し、ジャイロ回転により初速と収束の差が小さくなります。

 

カットボール(真っスラ)

ストレートの握りから人差し指を少し中指側にずらして握り、リリースの際にボールを切るようにして投げます。真っスラとも呼ばれるように、ストレートとスライダーの間の球種です。

バックスピンとスライダー回転が掛かります。バックスピンにより上向きの揚力、スライダー回転により左向きの揚力が発生します。

ストレートとの見分けがつきにくく、特に左打者のバットの根元で詰まらせる際に有効です。

 

・カーブ

一般的に手首を深く曲げて、リリースの際には指先で弾くように回転を与えるか抜いて投げます。

トップスピンとスライダー回転がかかります。トップスピンにより下向きの揚力、スライダー回転により左向きの揚力が発生します。よって左に曲がりつつ、どの球種よりも落ちる球となります。

カーブにはいろいろ種類がありますが、ここでは間違えやすいナックルカーブを紹介します。ナックルカーブはナックルに似た握りをするだけで、強い回転をかけて通常のカーブよりも大きく縦に落ちます。ナックルのように無回転ではなく、よってゆらゆら揺れたりはしません。

 

・チェンジアップ

わしづかみにして投げるなど、ボールに力が伝わらない握りで投げます。

ストレートよりも球速が遅く、また回転数が少ないです。よって揚力が小さく、沈んでいきます。

 

・フォーク

ボールを挟むようにして握って投げます。

回転数が少ないため、揚力が小さくなって落ちます。

手首や腕の振りが直球と同じかつ、その軌道から打者の近くで急激に落下するため打者には直球との判別が難しく、変化も大きいことから空振りを奪うために使われます。

 

・スプリット(SFF、スプリットフィンガーファスト)

フォークより浅い握りで投げます。ストレートとフォークの間のような球種です。

ストレートよりはわずかに少ないバックスピンがかかり、上向きの揚力がやや小さくなります。そのためフォークよりは球速が速く、小さく落ちる球となります。

ストレートとフォークの見極めよりもストレートとスプリットの見極めの方が難しく、変化量は小さいながら打者を惑わします。

 

・パーム

手のひらて包むようにして投げます。

球速が遅く、かつ回転数が少ないため、小さな揚力が発生します。リリースの直後から縦に大きく落ちる変化をします。

リリースの瞬間に手のひらを転がり、高めに投げるように見えてそこから落ちるので打者の視線が上下します。

 

・ジャイロボール

これは少し特殊で、進行方向に回転軸を持ちます(図では画面から飛び出す方向)。進行方向と回転軸が平行なので、揚力は発生しません。また、前回の変化球の仕組みで「ボールの縫い目によって空気が乱されて乱流が発生し、後流が小さくなって抗力は減少する」というお話をしましたが、ジャイロボールではますます空気が乱れやすくなります。そのため後流が小さくなり、ストレートよりも抗力が減少することが知られています。

中でも右の図のツーシームジャイロは、抗力がかなり小さいです。回転するときに縫い目が不規則的に通過するので、空気が乱れやすいからだそうです。一方左の図のフォーシームジャイロは回転するときの縫い目が規則的に通過するので、ツーシームジャイロよりは抗力が大きくなります(それでもストレートよりは小さいですが)。

抗力が小さいということは、減速しづらく、初速と終速の差が小さくなることを意味します。よって打者はタイミングがとりづらくなります。

 

参考文献

溝田武人、小西弘明、錦織大介、硬式野球ボールの変化球に関する研究(縦スライダーの空気力測定と飛翔軌道解析)、日本機械学会講演論文集No.38-1、143-144(2003)

横山佳之、宮嵜武、姫野龍太郎、ジャイロボールのドラッグクライシス

ながれ27、403-409(2008)

 

・ナックル

一般的に、指を立てて握り、回転を与えないようにして投げます。

ほぼ無回転なので、回転による揚力は発生しません。不規則に揺れながら、重力によって落ちていきます。

「不規則ってなんやねん! そんな曖昧な言葉で納得できるかい!」

そうですよね。私も調べてみました。そこで丁寧に説明してくれている論文を発見したので、ここではその内容を簡単にまとめたいと思います。

上でも書いたように、ナックルに回転はほとんどかかっていません。ではなぜボールが動くかというと、それはやはり後流のせいです。

前回、縫い目があると空気が乱されて乱流が発生し、剥離位置が後方へ移動するという話をしましたが、ボールは縫い目だらけというわけではありません。ご存じのように、ボールの縫い目は百八つのみです。ただ高速で回転している場合、まあボール全体が縫い目の影響を受けるでしょうということです。

しかしナックルの場合はそうはいきません。ボールの場所によっては縫い目の影響を受けないところもあります。

例えば、ボールの角度が上の図のような場合(ちなみに上の図は、ボールを真上から見ています)。空気は前方の縫い目に当たって乱流となり、後方の縫い目の少し手前で剥離します。乱流になっているので剥離位置は後ろの方です。よって後流が狭くなり抗力は小さく、また剥離位置が対称なので揚力は発生しません。

しかし、ボールの角度が異なると話は変わってきます。

例えば上の図のようなとき。ボールの右側(上の図のボールの上側)は先ほどと同じように、空気は前方の縫い目で乱流化し、ボール後方で剥離します。しかしボールの左側はどうでしょうか。最初の縫い目にはかすっている程度なのであまり乱流化せず、おまけに二度目の縫い目にぶつかって空気が剥がれてしまっています。その結果、後流の面積が広くなり、抗力は大きくなります。また左右で剥離位置が非対称なので、後流の向きが曲がり、右向きの揚力が発生します。

もう一つ、ボールの角度が違う場合も見てみましょう。

今度はボールの右側も左側も、最初の縫い目には当たりません。ボールの真横に来たところで縫い目に当たり、そこで空気が剥がれてしまいます。そのため後流の面積は最大となり、抗力も最大となります。また剥離位置が再び対称になったので、揚力は0となります。

 

以上のように、ナックルのように回転数が極端に小さい場合、ボールの角度によって抗力や揚力が異なってきます。論文に載っている実験結果はこんな感じ。

つまりナックルは不規則に揺れているのではなく、ボールの角度によって動く方向が変わるわけです。打者の手元に届くまでに45度回転したら、横向きの揚力は上がって下がるので、だんだん右に行く力が強くなり弱くなります。打者の手元に届くまでに90度回転したら、横向きの揚力はプラス→マイナスとなるので、最初は右に行く力が働き、次に左へ行く力が働きます。では打者の手元に届くまでに180度回転したら? ボールは右へ行き、左へ行き、右へ行き、左へ行きます。これがナックルが揺れて見える理由です。

 

参考文献

溝田武人、久羽浩幸、岡島厚“ナックルボールの不思議? 第1報 準定常理論による飛翔解析とフラッター実験”、日本風工学会誌、第62号、3-13(1995)

溝田武人、久羽浩幸、岡島厚“ナックルボールの不思議? 第2報 硬式野球ボールのWake Fieldと空気力”、日本風工学会誌、第62号、15-21(1995)

 

変化球の種類について調べた結果は以上です。ジャイロボールとナックルの仕組みについては前回扱わなかったので、少し長くなってしまいました。基本的にはウィキペディアの情報なので、情報が浅いかもしれませんが、今回はこの程度で留めさせてください。